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東京高等裁判所 平成8年(ネ)3574号 判決 1997年1月21日

東京都目黒区中町二丁目三二番四-一〇一号

控訴人

篠塚賢二

東京都大田区中馬込一丁目三番六号

被控訴人

株式会社リコー

右代表者代表取締役

桜井正光

右訴訟代理人弁護士

野上邦五郎

杉本進介

冨永博之

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  本件を東京地方裁判所に差し戻す。

二  被控訴人

主文と同旨

第二  事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」中における「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決一一頁五行目及び一二頁八行目の各「被告対し」をそれぞれ「被控訴人に対し」に改め、同一一頁七行目の「被告に対し」を削り、同行目の「基き」を「基づき」に改め、同頁八行目の「第二五五七二九号」を「第二五七二九号」に改める。)。

一  当審における控訴人の主張

1(一)  訴訟において真実を尽くすには際限がないが、真実が尽くされるまでの時間の長短、訴訟費用を必要とする訴訟での一部請求としての分割の回数等は、訴求される側の対抗の手段、抵抗の度合い、特に、分割前の全体債権の大きさに対する訴求する側のその時々の経済状態等によって定まるものであり、画一の基準はない。したがって、その点についての客観的に正しいとはいえない基準によって、事実関係を認定すべきではない。「信義則」の恣意的解釈は権利の存立を脅かし、また、その理念の恣意的濫用は不公平をもたらし、不当である。

(二)  控訴人は、二つの会社の代表者であったが、昭和四二年一一月三〇日に倒産のやむなきに至り、本件実用新案権の侵害による損害賠償を、未だに分割請求せざるをえないという特別の事情を有する者であり、また、法律知識も豊富とはいえない非法律専門家であるから、民事訴訟制度の悪用は不可能であると同時に、そのようなことについて到底思いも及ばないことは自明である。

(三)  被控訴人は、控訴人が<1>事件を提起する前に、控訴人に対し、「天下のリコーは決して逃げ隠れしない。」と断言したほかに、「裁判をすれば一〇年の泥仕合となる。更に長引けば大概参る。」等と述べていたという特別な事情もあるから、控訴人の本訴提起は、被控訴人の予見していたところである。

以上の諸事情からみるならば、控訴人による本訴提起が訴権の濫用というべきものでないことは明らかである。

2  被控訴人は、本件実用新案権に係る考案(以下「本件考案」という。)の出願公告日(昭和四七年一月二二日)以前に、本件考案の内容を知っていたものである。

すなわち、実用新案の出願公開制度は、昭和四五年における実用新案法の改正により導入されたものであり、改正前においては、出願内容は、出願公告されるまで秘密のまま保たれていた。したがって、出願公告前においては、誰がどのような考案について出願し、権利を取得しようとしているかを調べることはできなかった。しかしながら、<1>事件において、被控訴人から昭和五三年一一月二〇日に提出された、控訴人作成の昭和四六年一月一八日付け「意見書」及び「意見書理由」の各写、昭和四六年一月一八日付け「手続補正書」及び「明細書」の各写と、被控訴人により昭和五四年七月三一日に右書面と差し替えられた同一の各写とを対比すると、前者には、昭和四六年一月二〇日付けの特許庁の押印はないが、後者には右押印があることが明らかである。

右事実に照らすならば、被控訴人は、本件考案の出願公告日以前に、本件考案の内容を知っていたものといえる。

3  被控訴人の現代表者は技術系の出身であり、本件考案における「緩挿」が「固着」という意味を含まないことについて熟知していたことは明白である。

二  控訴人の右主張に対する被控訴人の認否

すべて争う。

第三  証拠

証拠関係は、原審及び当審における訴訟記録中の証拠に関する目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の本件請求は不適法なものとして却下すべきものと判断するが、その理由については、次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」中における「第三 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決一七頁八行目の「、訴えの利益を欠き」を削り、同二〇頁八行目の「訴権の濫用にあたり、訴えの利益を欠く」を「訴権の濫用にあたる」に改める。)。

一  控訴人は、当審において、本件訴訟の適法性について、前記第二、一、1のとおり主張するが、そのうち、(一)の事由が失当であることは、前記引用に係る原判決(第三、二)において説示のとおりであり、また、同(二)の控訴人の経済事情及び法律知識等に関する事由も、同じく引用に係る原判決(第二、二、第三、一、二)での認定、判断に照らすならば、本件訴訟の提起を訴権の濫用とみなすべきことを妨げる事情に該当するものとは解されず、更に、同(三)の事由についても、その主張のとおりの発言がなされたか否かはともかくとして、仮にそのような発言があったとしても、そのことが、被控訴人において、前記引用に係る原判決(第二、二)認定の、本件訴訟に至るまでの多数の旧訴の提起を容認する意思を示すものとは到底解されない。

二  控訴人の当審における前記第二、一、2、3の主張については、それが、本件訴訟の適法性に関連するものでないことは明らかである。

三  したがって、控訴人の当審における主張を勘案しても、本件訴訟が、訴権の濫用に当たらず、適法なものであるとすることはできない。

第五  以上によれば、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)

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